若手懇談会前回の講演会
第149回講演会報告

第149回若手懇談会開催報告

【日時】2023年5月19日(金)13時00分〜17時30分
【場所】日本ガラス工業センター
【テーマ】XAFS等の放射光を用いたガラスの分析

[講演1]「XAFSを用いた非晶質物質中の元素局所構造解析」

産業技術総合研究所地質情報研究部門 副研究部門長
太田 充恒 (オオタ アツユキ) 先生

 講演前半はXAFS(X線吸収微細構造)の概要についてご説明いただいた。XAFSとは、X線が物体を透過する際の吸収スペクトルにおいて、吸収端近傍で観察されるスペクトルの微細構造である。吸収端から50eV程度の近傍領域にみられるものはXANES、それより高エネルギー側にみられるものはEXAFSと呼ばれ、前者からは元素の価数や化学形態、後者からは原子間距離や配位数など原子レベルでの構造の解析が可能である。XAFS解析は、水溶液や非晶質物質中に含まれる微量元素の局所構造の解析にも適用可能な点が強みの一つである。
 講演後半はXAFSを用いた局所構造解析について、講演者の研究事例をご紹介いただいた。講演者は原子番号の増加とともにイオン半径が漸減するランタノイドに注目し、非晶質物質中に取り込まれた際の配位構造について、各ランタノイド原子間での違いを検証した。ランタノイド種別に依らず同一の構造を有する物質を共通のモデル物質として設定し、EXAFSスペクトル解析を行った結果、配位数については結果の誤差が大きかったものの、原子間距離は精度よく求まり、そこから錯体のような配位構造を推定可能とのことであった。XAFSの基本原理から局所構造解析の結果まで丁寧にお話し頂いたことで理解が深まりました。

太田先生ご講演



[講演2]「ガラスの構造解析ツールとしてのXAFS」

産業技術総合研究所 材料・化学領域 研究企画室
ナノ材料研究部門 高機能ガラスグループ(兼務)
正井 博和 (マサイ ヒロカズ) 先生

 ガラスは微量添加物など様々な因子に依存して構造が変化する材料であり、その構造・物性評価のため複数の手法が用いられている。本講演ではガラス材料における構造解析ツールとしてのXAFSについて解説いただき、XAFSを用いたガラスの研究事例を2例ご紹介いただいた。
 1例目は EXAFS 領域を用いたガラス中の準安定状態の評価についてであり、透過法を用いたxZnO-(100-x)P2O5(xZP)ガラスの構造解析事例をご紹介いただいた。実測によりガラスサンプルのEXAFSスペクトルを得た後、逆モンテカルロモデリング(RMC)によりそれらのスペクトルを再現する構造モデルを構築した。一般的にXAFSではガラス中の元素の第一配位圏の情報のみが得られるが、構造モデリングを併用することでガラス構造を三次元可視化可能とのことであった。
 2例目はXANES領域を用いたガラス中の微量元素の評価についてであり、ガラス中にドープされたカチオンの価数評価事例をご紹介いただいた。価数評価の一般的な手法であるメスバウアー測定と比較して、XANESスペクトルを用いた解析は低濃度試料も測定可能である等の利点を有するとのことであった。XAFSを用いたガラスの構造解析は材料開発に必要となるツールであり、非常に有益な知見が得られました。

正井先生ご講演



[講演3]「蓄積リング放射光やX線自由電子レーザーを用いた新規分析技術」

北海道大学 電子科学研究所 教授
西野 吉則(ニシノ ヨシノリ) 先生

 独自構築した新規の放射光分析技術として、πXAFS(光子干渉X線吸収微細構造)とPCXSS(パルス状コヒーレントX線溶液散乱)の2例をご紹介いただいた。πXAFSは、X線吸収スペクトル中において、吸収端を跨いだ幅広いX線エネルギー領域に存在する極微細な構造であり、原子間距離や配位数の情報を含んでいる。従来のEXAFSが光電子の干渉によって生じるのに対し、πXAFSは光子の干渉によって生じるという点で異なっており、X線吸収スペクトル中における存在範囲の広さから、放射光施設のエネルギー範囲に依存しない手法として特に軽元素の解析における新たな構造解析手法としても重要であるとのことであった。
 PCXSSは、フェムト秒のX線自由電子レーザー(XFEL)を用いた溶液試料に対するコヒーレント回折イメージングである。試料損傷が起こる前の一瞬の試料構造をナノイメージングすることで生体試料も観察可能であるほか、溶媒によるイメージコントラスト増強により、ガラス中に析出したナノ結晶などほとんど密度差のない構造も高コントラストで可視化可能な手法とのことであった。講演では実際の研究例としてXFELによる生細胞のナノレベル観察や全固体電池の電解質中に析出した微結晶の観察についてご紹介いただいた。ガラス中の微結晶は放射線照射によりアモルファス化しやすく一般的なイメージング手法での観察は困難だが、本手法は放射線損傷がないことから、結晶相の分布や形状も明瞭に観察できるとのことであった。応用的な放射線分析技術、さらにその実際の測定例についてもご紹介いただき、大変興味深い講演でした。

西野先生ご講演





 今回は「XAFS等の放射光を用いたガラスの分析」というテーマでご講演頂きました。ご講演頂きました先生方に感謝いたします。
 今回の講演では、オンライン開催ではしづらかった講演中の質疑応答が熱心になされ、講演会後の交流会でも活発な議論が行われたのが印象的でした。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。


以上

2023年5月19日 NGF若手懇談会 副会長 佐藤 達也、中嶋 健人

 

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