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第157回講演会報告 第157回若手懇談会開催報告
[講演1]「ガラス非晶質構造解析の基礎」 岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域 准教授、博士(工学)
ガラスの構造特性とその解析手法、さらに得られたデータを基にした構造モデリングについてご講演頂いた。ガラスは結晶のような周期的構造は持たないが、短距離(数A)および中距離(約10A)スケールにおいては秩序だった構造を示している。これらの構造の解析手法として、X線・中性子回折、赤外・ラマン分光、NMR、メスバウアー分光、光電子分光といった多様な手法について、具体例を交えてご説明頂いた。特に回折法はガラス構造に関する情報を豊富に含んでおり、他手法との併用により補完的な解析が可能となる。また、放射光やパルス中性子の活用により、さらに精度の高い散乱スペクトルの取得とそれを元にしたガラス構造推定が可能となる。原子シミュレーションもガラス構造の解明につながる重要な技術であり、具体例として逆モンテカルロ法(RMC)などの計算手法により、原子配列モデルの構築に活用されることを、実際のコード例も交えてご紹介頂いた。これらの評価・解析法を組み合わせることで、構造と物性の関係解明や新材料設計への応用が進むことが示された。今後は構造データベースの整備やシミュレーション技術の発展により、非晶質構造理解の深化が期待される。 難しく捉えてしまうことが多いガラスの構造とその評価・解析方法について基礎的な内容から、実際の評価時の実例までご説明頂き、若手研究者にとっては今後の構造評価・解析のアプローチを進める上で大変勉強になる講演でした。 [講演2]「ガラスダイナミクスの機械学習」 兵庫県立大学 大学院情報科学研究科 准教授 一見無秩序な原子配置を持つガラス状態に対し、原子位置や動力学的観点からガラスの物理的背景に迫る研究に関して、最新の機械学習を用いた研究手法をご紹介頂いた。ガラス構造やダイナミクスの予測に対しては、これまで様々な機械学習手法を用いられてきたが、特にグラフニューラルネットワーク(GNN)等を活用し、粒子の相対運動から将来の変形傾向(propensity)を高精度で予測できることが2020年にDeepMind社のグループから示され着目を浴びている。先生はこの機械学習に相対運動の学習機構を導入した「BOTAN」を独自開発し、既存の物理ベース手法や他の機械学習手法(SVMなど)よりも動力学的な面において高い予測精度を有している。また、近年の機械学習によるガラス構造の予測技術に関しての共通基盤化とベンチマークが可能なデータ基盤“GlassBench”の構築にも取り組まれている。また、対称性を考慮した学習や、学習データ無しでの機械学習モデル等の新しい試みについてもご紹介頂いた。 機械学習的な知見がない方にもわかるように、ガラスの動力学の考え方から、実際の取り組み事例、最新の研究動向についてご説明頂き、ガラス構造の予測が機械学習の活用により年々精度が改善していることを学ぶことができた。 [講演3]「オングストロームビーム電子回折によるガラス材料の局所構造解析」 早稲田大学 理工学研究科 材料科学専攻 教授
ナノスケールの構造情報取得が困難な非晶質材料に対し、オングストロームビーム電子回折(ABED)法を用いて局所構造を解析する手法を金属ガラス(Zr80Pt20 )、シリカガラスを例にご講演頂いた。この解析手法では、ABEDから観察された回折パターンと分子動力学(MD)法、局所リバースモンテカルロ(RMC)法を組み合わせることにより、ガラスの局所構造の推定が可能となる。1例目として、Zr-Pt系金属ガラスでは、頻発する回折パターンを分析することで、歪んだ20面体構造が主要な局所構造であることを確認された。また、MD計算では、冷却速度によって配位数が異なる3種類のクラスターが発生することが確認され、緩和過程における構造変化の挙動と類似していることが示され、構造の揺らぎについての挙動が見えている可能性が示唆された。2例目として、シリカガラスの解析では、FSDP(First Sharp Diffraction Peak)に起因する原子密度揺らぎを直接観察し、MD計算とRMC法を組み合わせて得られたシリカガラスの原子構造に対してヴァーチャルでABED法による回折パターンをシミュレーション計算することで、非晶質シリカガラス中に潜む秩序構造の理解が深まるとともに、新たな構造解析技術の有効性が示された。 最新の非晶質の局所構造の観察・解析手法について実例を用いて丁寧にご説明頂き、複雑な回折パターンから構造を予測していく過程を学ぶことができ非常に興味深い講演でした。 今回は「ガラスの構造解析とシミュレーション」というテーマで3名の先生方にご講演頂きました。紅野先生のガラスの構造特性とその解析方法といった基礎的な内容の講演から始まり、ニューラルネットワークを用いた機械学習的なアプローチや、オングストローム電子回折を用いたナノスケールの構造評価・解析といった最新の技術を用いたガラス構造解析について学ぶことができるまたとない講演会となりました。 以上 |
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