若手懇談会前回の講演会
第158回講演会報告

第158回若手懇談会開催報告

【日時】2025年7月25日(金)12時45分〜19時00分
【場所】富山市ガラス美術館、富山ガラス造形研究所、富山ガラス工房 
【テーマ】ガラスと付加価値     
 2025年度の見学会では、「ガラスの街とやま」として力を入れている富山市に訪問し、【富山市ガラス美術館】【富山ガラス造形研究所】【富山ガラス工房】の3か所の見学を実施した。また、富山市のガラスの街づくり推進担当の豊川先生とガラス造形研究所の本郷先生からそれぞれ市と造形研究所で行っている取り組みについてご講演頂いた。

[講演1]「「ガラスの街とやま」40年の取組について」

富山市企画管理部文化国際課主幹 ガラスの街づくり推進担当
豊川 嵩(トヨカワ タカシ)先生

 富山市は約40年にわたり「ガラスの街とやま」として、アートとしてのガラスの浸透を推進する独自の取り組みを続けている。歴史的には1985年に市民向けのガラス工芸コースが開設され好評を博したのをきっかけに、1991年に本格的な学びの場として富山ガラス造形研究所が設立され、1994年に製作の場として富山ガラス工房が併設された。2015年には製作されたガラスの作品を鑑賞する場として富山市ガラス美術館が設立され、教育の場、製作の場、展示・鑑賞の場と施設が市内に整えられた。その結果、1つの街でガラス作家の育成から自立までが可能な環境となり、例えば安く使用できるガラス工房の工芸用設備を求め、ガラス作家の富山市への定住率も増加するなど市政への好循環もみられるとのことであった。また、市民へのさらなる「とやまガラス」ブランド浸透を目指し、ガラスのペーパーウェイト体験の小学校の卒業制作への導入や、街のホテルや富山駅、富山空港での作品展示を行っているとのことであった。
 また、米国のコーニングガラス美術館とも令和3年から相互協力協定を行っており、学芸員を研修派遣したり、共同企画展を開催したりと交流が深いとのことであった。教育機関を有する富山市を参考に、コーニングガラス美術館でも今年11月にガラス造形の学校を開校するとのことであった。
 行政が政策として注力して実行しているからこそ、市長が変わっても志が残り、40年という長い取り組みにつながっているとの言葉もあり、産業とは異なる、アートとしてのガラス造形を推進するための行政としての取り組みや基盤体制の重要性を知ることができる貴重な講演であった。


写真1 ガラス美術館前での集合写真

   写真1 ガラス美術館前での集合写真

[講演2]「富山ガラス造形研究所におけるガラス造形教育〜ガラスアートの可能性〜」

富山ガラス造形研究所所長
本郷 仁(ホンゴウ ジン) 先生

 富山ガラス造形研究所では日本で唯一の公立のガラス専門学校であり、基礎からガラス造形を学ぶ造形科が2学年(各16名)、実践的な制作活動を行う研究科が2学年(各5名)から成る。これまでに540名程の卒業生がおり、70%程はガラス作家として関わっているとのことであった。国外からの入学者も多いが、それは、富山のガラス工芸が、小樽や琉球と比べると歴史は浅いものの、産業・文化だけでなく教育基盤も有する点が世界でも特徴的な地域だからとのことであった。特にここ10年は実践的な教育に力を入れており、工芸の製造技術だけでなく、何を作るか、なぜ作るか、社会に作ったものの価値をどう示すかといった、卒業後の作家としての自立性を養う教育にも力を入れている。近年は特に学生の入学目的も多様化しており、学外からの特別講師招聘も含め、目的や目標に応じたサポート体制を整えているとのことであった。
 ガラス造形研究所での教育体制や、実際の設備を見せて頂き、ガラス工芸の技術習得の場であるとともに、芸術としてどのように表現するかを模索している過程も学生の方々の作品から伺い見ることができ、ガラスの可能性を感じることができる場であった。


写真:2 富山造形研究所での集合写真と内部の様子 写真:2 富山造形研究所での集合写真と内部の様子

 最初に訪れた富山市ガラス美術館では学芸員の方の説明を聞きながら、常設展の中からいくつかの作品を鑑賞させて頂いた。絵の具で着色した作品や、パートドヴェールといったガラス粉を焼成して作製する技法を用いた作品、ガラスの屈折を利用した作品など作家毎に様々な表現方法を取り入れている作品が並んでおり、見て楽しみながら、どのように製作されているのか各々考察を巡らせながら鑑賞を行った。
 次に訪れた造形研究所では実際に教室内の様子や、電気炉や研磨機といった設備も見学させて頂き、充実した設備がある様子から学内で様々な製作が可能であることが伺えた。最後に隣の工房で実際のガラスを用いたデモンストレーションを見学させて頂き、ガラスの取り扱いの難しさや、吹いた際に想像以上に膨らむ面白さなどを間近で見ることができた。
 半日の見学を通じて、富山市がガラス文化の拠点として、地元の伝統と創造性を融合させながら、世界に向けてその魅力を発信していることを知ることができた。ガラスの街・富山で生まれるアートや技術が、これからも発展し、世界的に広がることを見守っていきたい。工業としてのガラスとは違った観点で、ガラスの可能性を知ることができた貴重な機会であった。
 

 本見学にあたり、見学を受け入れて下さった担当者様・先生方、ご講演頂きました先生方に大変感謝いたします。
 今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。
 


以上

2025年8月4日 NGF若手懇談会 副会長 藤井 未侑、前田 枝里子

 

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