会長のご挨拶

 1980年代初頭,オプトエレクトロニクスなど新たな先端技術産業の台頭に伴い,これらの要求に応える材料として機能性を飛躍的に高めたニューガラスが注目されはじめた。こうしたなか,ニューガラスフォーラムが設立され,産官学の緊密な連携によるニューガラスの研究開発,産業基盤整備等の事業を推進してきた。来年は,いよいよ設立40 周年である。長年,ニューガラスフォーラムの活動を通じて,我が国のガラス科学やガラス産業の発展を支えてこられた諸先輩方に改めて感謝申し上げるとともに,深く敬意を表したい。この節目の時期を迎えるにあたり,ニューガラスの未来を展望すると,ガラスの技術開発の基盤とも言える部分において加速化するいくつかの課題が挙げられる。中でも,次の3つの課題は解決に向けて取り組んでいく必要があると考えている。

 1つ目は,「カーボンニュートラルへの対応」である。ガラスは数千年以上も前に発明された人類最古の材料のひとつであるが,材料設計や製造技術の進歩により,その機能は今も進化し続けている。一方で,1000 ℃以上の高温で溶融する工程が必要であることに変わりなく,現在でもその熱源の多くを化石燃料に頼っている。我々としては,カーボンニュートラルという課題を,溶融技術を進化させる積極的な機会と捉え,単なる熱源の変更に留まらず,品質や生産性の向上を伴う技術開発を目指していくことが必要である。ニューガラスフォーラムでは,カーボンニュートラルに関して,会員企業が独自に技術開発を進めるための土台となる技術動向の情報収集や解析を継続的に進め,会員の皆様へ情報提供を行っている。また,技術課題についてはアカデミアとともに基礎科学的な視点からの意見交換を企画している。
 2つ目は,「ガラスの基礎研究の振興とガラス研究者減少の対策」である。未来に向けてガラスを進化させ,産業の発展に寄与していくためには,土台となるガラス基礎科学の充実が不可欠であるが,アカデミアの基礎研究者の減少が深刻な問題となっている。このような危機感を共有しつつ,2022年からスタートしたガラス研究振興事業では,第1期(3年間)の基礎研究支援が進められ一定の成果が得られている。引き続き,2025年から第2期(3年間)の支援が開始される予定である。様々な異分野の研究者にもガラス科学に取り組んでもらえるよう積極的に情報発信に努め,新たなガラス研究者の増加とガラス科学の発展につなげていきたい。また,ガラスの魅力を異なる産業界の技術者や,学生などの若者も含めた一般の方々に発信し,ガラスに興味を持つ人のすそ野を広げていくことも重要である。国連が2022年を「国際ガラス年」と定め,その関連行事は様々な人々にガラスを知って頂く良い機会となった。ニューガラスフォーラムでは,この流れが一過性のものにならぬよう,ガラスの啓蒙に努めていきたい。
 最後に,「AI などのデータ活用による変革の推進」である。ガラスは様々な元素を溶かし込むことができ,その用途は無限の広がりを持つ。昨今,AI の活用が急速に進んでいるが,このようなガラスの性質を鑑みれば,AI がたちまちガラスの全てを理解し,自立的に判断できるとは考えにくい。しかしながら,多種多様なデータを解析することで,技術的な問題に対して解決への道筋を見出してくれる存在になろうことは容易に想像できる。AI 及びデータ科学を活用した材料や製造プロセスの高度化には,質の高いデータベースの構築が最も重要である。ニューガラスフォーラムが継続的に実施しているデータ事業についてはその価値がますます高まるものと考える。加速度的に進むAI,データ科学の時代において,今後も一貫して皆様に喜んでいただけるデータ事業を継続していくことが重要であろう。

 情報通信,半導体,モビリティ,エネルギー,医療,環境技術など,近年,各分野において技術革新が急速に進展し,ガラスに求められる特性・機能,製造技術は日々高度化している。我々は,様々な技術的ハードルをクリアし要求に応えていくことで,社会の発展に寄与し,自らも成長していかなければならない。ニューガラスフォーラムの活動を通じて,会員の皆様の取り組みを後押しし,我が国のガラス業界全体を盛り上げていければ幸いである。末筆となるが,ニューガラスフォーラムの運営面及び財政面でのご支援に改めて厚く御礼申し上げるとともに,引き続き,ご指導とご協力をお願い申し上げ,会長就任のご挨拶とさせて頂く。

一般社団法人 ニューガラスフォーラム会長
日本電気硝子株式会社 代表取締役会長
松本 元春


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