巻頭言「ニューガラス」を探し続ける ------- p.1 [試し読み] 私がガラスの開発に従事してすでに40 年,ニューガラスフォーラムも設立されてから30 年以上になった。本フォーラムのウェブサイトにもあるように,ニューガラスとは,「ガラスが本来持っている優れた性質を,これまでの観念を超えた精度に高め,高機能化したガラス」のことである。この定義に従えば,これまで私が携わった開発テーマのほとんどが,ニューガラスと呼ばれるものであろう。光学ガラス製造メーカーの従業員として,本業の光学ガラスの開発は当然であるが,それ以外の機能性ガラスの開発にも力を注いできた。
(株)住田光学ガラス 沢登 成人
特集「ガラスに関わる液相化学〜最近のWeb会議における研究発表から〜」1)脱炭素社会に向けたエア・リキードの酸素予熱燃焼と水素燃焼 ------- p.3 [試し読み] 気候変動に対する取り組みとして,エア・リキードは持続可能な産業向けの低炭素ソリューションを開発しています。Heat Oxy-Combustion(HeatOx)は,燃焼排ガスエネルギーを再利用し酸素・燃料を予熱する技術で,CO2 排出量を低減します。また,クリーンな水素は化石燃料と置き換え,CO2 排出量を削減するための1 つの有力なオプションです。さらに,LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づく研究を通して,HeatOx と水素燃焼を合わせたハイブリッド燃焼を提案しています。今回は,脱炭素社会に向けたエア・リキードの酸素予熱燃焼と水素燃焼をご紹介致します。
日本エア・リキード合同会社 木村 誓史 他2名
2)ガラス熔解槽用 新規強化Pt 'nanoplat DT' ------- p.6 [試し読み] ガラスの熔解装置,特に高い溶融温度や不純物の少なさを要求されるような高品質なガラスの製造装置には,Pt 材料が用いられる。白金系の熔解装置の構成材料として,高温での強度不足を補うために従来からPtRh系の合金が用いられてきた。また,さらに高温強度が必要な部位のために,PtまたはPtRh合金のマトリックス中に,微細な酸化物粒子を分散させた酸化物分散型強化Pt合金(Oxide Dispersion Strengthened:ODS)が開発され,ガラス熔解装置には不可欠な材料となっている。これまで熔解装置の寿命を伸ばすために,ODS の高温クリープ強度を伸ばすことが開発の主であった。しかし,
田中貴金属工業(株) 宮下 敬史
3)ガラスの高熱伝導化: MgO結晶の析出と透明性の保持 ------- p.10 [試し読み] 原理的に低熱伝導なガラスに高熱伝導を付与するためには,溶融急冷法による均質ガラスの作製をあきらめ,ガラス機能化の常套手段である結晶化を利用する必要がある。つまり高熱伝導結晶を埋め込むという単純な発想である。しかし単に高熱伝導結晶を大量に混入したのでは透明性と賦形性というガラスのメリットが損なわれる。この理由はそれぞれ,結晶とガラス間の屈折率不一致による界面光散乱とガラスネットワーク消失による粘性の低下によるものである。また仮に界面光散乱を抑制しつつ高熱伝導結晶を大量混入できたとしても界面の比表面積が大きいと界面熱抵抗のために実効的な熱伝導率が激減してしまう。
東北大学大学院 寺門 信明 他2名
4)自己修復性層状シロキサン薄膜の設計 ------- p.13 [試し読み] 一般に自己修復の対象となる損傷には変形,欠損,クラックがあるが,剛直な骨格を有する材料においてはクラックの発生に起因する脆性破壊が問題となり,微小なクラックの修復が特に重要である。しかしながら,一般的なソーダガラスでは微細なクラックでもその修復に600 ℃以上での高温かつ長時間の熱処理が必要となる。シリカやシルセスキオキサン系材料に生じたクラックを温和な条件下で自己修復させるには新しい材料設計が必要である。
早稲田大学大学院 宮本 佳明 他1名
5)イオン性多面体オリゴシルセスキオキサン(POSS)の超強酸触媒合成および特性 ------- p.16 [試し読み] 三官能性有機アルコキシシランの加水分解とその後に続く縮合反応によって合成される化合物は,1 つのケイ素(Si)原子に対して1 つの置換基(R:主に有機置換基)と平均1.5個の酸素(O)原子が結合したRSiO1.5 の繰り返し構造で表され,シルセスキオキサン(SQ)と呼ばれる。SQ はシロキサン結合由来の熱的・力学的・化学的安定性を有することに加えて,R に機能性基を導入することで様々な性質を付与することが可能であり,近年非常に注目されている化合物である。中でも,多面体オリゴSQ(POSS)はかご型(鳥かごのような)構造のシロキサン化合物であり,様々な媒体に対して分散性に優れ,有機- 無機ハイブリッドの分野で広く研究が展開されている。
鹿児島大学 金子 芳郎
研究最先端1)永久高密度化ガラスの構造―無秩序な構造の中に潜む秩序の抽出― ------- p.20 [試し読み] ガラスの作製条件を精密に操ることによる構造制御は,より優れた物性を持った新規ガラスの合成につながることが期待される。ガラスの構造を制御していくためには乱れた原子配列の中から物性と相関がある構造秩序を抽出し,評価することがその第一歩となるが,空間群のような構造記述子を有する結晶とは異なり,乱れた構造を持ったガラスの中の秩序を見出し,抽出することには大きな困難が伴う。近年,最も代表的なガラス形成物質であるシリカ(SiO2)について,温度と圧力を制御することによって高密度化したガラスを合成・回収できることが報告された。本稿では,得られた高密度化ガラスが合成後1年の時間を経ても密度が不変であること,すなわち永久高密度化されていることを明らかにし,さらに
京都大学 小野寺 陽平
2)結晶性ナノ粒子分散液からの均一薄膜コーティングとエレクトロクロミズム ------- p.30 [試し読み] ガラスへの無機コーティングにゾル−ゲル法が広く用いられる。液相プロセスのアドバンテージは,その手軽さに加えて,有機−無機ハイブリッド化が可能であることや3次元構造体表面への成膜性に優れることである。一方で,均質なゾル−ゲル薄膜は,非晶質膜として成膜されることが多い。結晶性コーティングを得る際には,熱処理過程で膜面内に応力が蓄積し,剥離や収縮に伴うクラックが生じるという問題がある。ここで,結晶性ナノ材料を分散液として「事前に」作製し,それを成膜することは1つの解決策となりうる。また,結晶性ナノ材料分散液を用いて熱処理を経ずに結晶膜を成膜することができれば,高温環境下で不安定な結晶のコーティングを得ることもできる。本稿では,筆者らがこれまでに報告してきた濃厚分散系結晶性ナノ粒子の合成を概観し,
大阪府立大学大学院 徳留 靖明 他1名
いまさら聞けないガラス講座機能性材料の絶対発光量子収率測定 ------- p.33 [試し読み] 超薄型有機EL ディスプレイやLED 照明の急速な普及は,デバイスの高効率化による低消費電力化の実現により加速し,今や我々の日常生活の中にますます浸透してきている。これらのデバイスの高効率化においては,その材料の発光効率を精密に評価し,改善することが最も重要な要素の一つであり,我々がその指標である発光量子収率の測定装置を開発するきっかけとなった。ここで言う材料の発光とは,材料に励起光を照射した際に発せられる発光(Photoluminescence:PL)のことを指す。発光量子収率は,材料に吸収されたフォトン数に対する発光フォトン数の割合として定義される。測定法は,大きく相対法と絶対法に大別されるが、
浜松ホトニクス(株) 渡邉 裕彦
研究機関紹介(訪問)瑞国スイス連邦工科大学チューリッヒ校滞在記 ------- p.36 [試し読み] 筆者は2020年10月8日から2021年3月31日までの間,瑞国スイス連邦工科大学チューリッヒ校の村上元彦教授の研究室に客員教授として滞在した。村上先生のご専門は地球科学である。筆者と村上先生はこれまで放射光X 線を用いた高圧下におけるガラスの構造研究で共同研究を行ってきた経緯があり,その一環で村上先生に招聘されての滞在であった。スイス連邦工科大学(ETH)は自然科学と工学を対象とした世界でもトップクラスの工科大学であり,様々な大学ランキングの上位に入ることが多い。ETH はドイツ語でEidgenossischeTechnische Hochschule の略称であり,チューリッヒ校においては末尾にZurich のZ を付けてETHZ と呼ばれる。
物質・材料研究機構 小原 真司
ニューガラス関連学会1)The 31st Meeting on Glasses for Photonics 参加報告 ------- p.40 [試し読み] 令和3年1月29日(金)に日本セラミックス協会ガラス部会フォトニクス分科会が主催するThe 31st Meeting on Glasses for Photonicsが開催された。本研究会は,フォトニクスに用いられるガラスなどの材料の基礎もしくは応用に関する研究発表及び討論を行う研究会であり,産学官の研究者が集って例年行われている。1989年12月に第1回が開催され,今回で31回目を迎えた。本年度はCOVID-19の影響により対面式の発表が困難であったため,オンライン会議システム(Microsoft Teams)を用いた発表となった。オンライン形式の発表形式にも関わらず,口頭発表18件(招待講演2件,一般講演16件),参加者33人となり,最新のフォトニクス材料に関する活発な討論が行われた。
秋田大学 河野 直樹
2)日本セラミックス協会 2021年年会参加報告 ------- p.44 [試し読み] 2021年3月23日(火)〜 25日(木),昨年の秋季シンポジウムに引き続き,オンラインで日本セラミックス協会2021年年会が開催された。年会は,オーガナイザー制で技術テーマごとのセッションが開かれる秋季シンポジウムと異なり,材料ごと(秋季シンポジウムがなかったころの名残?)にわかれて開催される。また,学術賞など前年度に受賞された方々の受賞講演があることや,技術奨励賞,部会ごとの企業研究フロンティア講演など,企業の研究発表を聞くことができる貴重な機会である。もちろん,ガラス関係においても,「ガラス・フォトニクス材料」というセッションが設けられ,主にフォトニクス関係とそれ以外というくくりで,2 つの会場が割り当てられ,毎年活発に議論が行われている。今回,ガラス関係での受賞および企業研究フロンティア講演は以下のとおりであった。
日本電気硝子(株) 高木 雅隆
新刊紹介『ガラス科学技術入門(第3版:2021年)』(ジェイムズ E. シェルビー著,アルフレッド大学) ------- p.47 [試し読み] 2006年,本書の第2版の紹介記事を書いた。あれから15年。第3版が発刊されたので,再び紹介する。この本は,アルフレッド大学ニューヨークステイトカレッジでの講義がもとになっている。著者は,分相や結晶化について繰り返し議論しており,この点が他のこれまでの本と違うところだと強調している。構成としては,まず,なぜガラスになる物質とならない物質があるのかを論じ,次いで,ネットワーク構造の基本原理の理解と相分離に重点をおいてガラスの原子配列と微細構造を扱い,その後,ガラスの各特性(粘度,熱膨張,密度,輸送現象,機械的および光学特性など)について論じている。取りあげられている内容は,目次の項目を見る限り,オーソドックスな構成である。第3版で,新たに追加された内容は以下のとおりである。
日本電気硝子(株) 高木 雅隆
関連団体2021年「第11回定時総会」報告 ------- p.49 [試し読み] "2021年6月8日(火),(一社)ニューガラスフォーラムの第11回定時総会がWeb にて開催されました。定時総会では2020年度事業報告案ならびに収支実績案及び決算案と,2021年度事業計画案ならびに収支予算案が審議され,いずれも全会一致で承認されました。また,今回の総会は役員の定期改選期ではありませんでしたが,セントラル硝子株式会社の古俣理事,一般社団法人日本硝子製品工業会の橋口理事,株式会社ニコンの志水理事が退任され,替わって,セントラル硝子株式会社の石井理事,一般社団法人日本硝子製品工業会の井上理事,株式会社ニコンの平井理事が新たに就任されました。定時総会終了後には記念講演会が開催され,
(一社)ニューガラスフォーラム 事務局
コラムクルーズ船体験記 ------- p.50 [試し読み] この度コラムの執筆を依頼され,何を書くか思案して,以前から一度は,大型クルーズ船に乗ってみたいと思っていて,実際に短い期間であったが乗船した体験記を書く事にした。船名は,ダイヤモンド・プリンセス号,あの船である。日本で建造され,英国船籍で米国の会社が運行していた船である。総トン数約11万6千トン,乗客約3千人,乗組員約1千人で,日本人向けの施設も備えた客船である。乗船したのは,コロナ騒ぎになる2ヶ月ほど前の2019年11月末から12月にかけての9日間であった。今,思い出しても運が良かった。運悪くその時乗船していたらコロナに罹って,船内に缶詰になっていたかもしれないのである。
(一社)日本硝子製品工業会 井上 昌治